一人目人事はいつ必要か|「30名になったら」に根拠はない——採用の量×難易度で決める体制の設計
2026年7月21日
結論を先に:体制の問いは「何人になったら」ではなく「どれだけ・どんな採用をするか」
「うちもそろそろ採用担当を置くべきでしょうか?」——この質問への日本の定番回答は「社員30名が目安です」。複数の人事系メディアが、だいたいこの数字を書いています。
しかし、この「30名説」の出典を遡ると、根拠のある調査には行き着きません。業界で言い伝えられてきた経験則です。実際、30名でも年1人しか採らない会社に専任人事は要りませんし、10名でも年5人のエンジニアを採るなら体制なしでは回りません。体制を決める変数は会社の人数ではなく、「採用の量 × 採用の難易度」——これがこの記事の背骨です。
もう1つ、順番の話を先にします。米国の著名スタートアップ支援メディアFirst Round Reviewに「最初の10人の採用より、最初の10個の仕組みに集中せよ」という有名な論考があります(原典は採用に限らず会社運営全般の仕組み論です。本記事ではその発想を借りて、採用に絞って翻訳します)。一人目人事という「人」を採る前に、要件の型・面接の型・記録の仕組みという「仕組み」を作る。人はいずれ辞めますが、仕組みは残ります(第1章で見た通り、初期メンバーの半分は50人時点でいなくなります)。
この記事は採用完全ガイド(全28章)の第5章——土台となる第1部の体制編として、専任ゼロの最小構成から、外部パートナーの使い分け、一人目人事の採り方まで、体制の設計を判断基準つきで扱います。
体制の判断マトリクス:量×難易度で4象限
自社の採用を2つの軸で測ってください。年間の採用人数(量)と、採る職種の難しさ(難易度:専門職・競争の激しい職種ほど高い)です。
この整理は、日本の採用支援会社ポテンシャライトが公開している「人事の必要人数は、採用領域では採用難易度×採用人数で決まる」という実務モデルとも一致します(同社の試算では、年収1,000万円クラスのエンジニアを年5名なら人事1名強、年収400〜600万円の営業を年100名なら8名——後者は大企業規模の例ですが、考え方は同じです)。人数ではなく、仕事量から逆算する。体制も要員計画と同じ発想で決めるのです。
想定例で言うと: 社員45名の警備会社(隊員を年15人採用)と、社員12名のAI受託会社(エンジニアを年3人採用)。「30名説」なら前者だけが人事を置くべきですが、実際は逆に近い。警備会社の採用は量は多いが定型的で、求人運用と面接日程の「作業」を外部か兼任事務に任せれば回る(右下象限)。AI会社の採用は量こそ少ないが激戦で、探し方と口説きの専門性が勝負——経営者の時間と外部の専門性に投資すべき(左上象限)。人数は体制を決めない。
最初に作るのは「人」ではなく「10個の仕組み」
どの象限にいても、最初の一歩は同じです。属人化しない仕組みを、紙とスプレッドシートで作る。First Round Reviewの「First 10 Systems」(会社運営全般の仕組み論)の発想を借り、採用に絞って日本の中小企業向けに翻訳すると、この10個になります。
| # | 仕組み | 中身 | 作る場所 |
|---|---|---|---|
| 1 | 成果定義シート | 1年後の成果3つ+必須3〜5個 | 第4章 |
| 2 | 役割分担表 | What=現場/How=担当の線引き | 第3章 |
| 3 | すり合わせ会議の型 | 求人前に1時間・アジェンダ4つ | 第3章 |
| 4 | 候補者台帳 | 全候補者の状態と次アクションを1枚に | スプレッドシート |
| 5 | 面接の質問セット | 全員が使う共通質問と採点基準 | 第16章 |
| 6 | 連絡の期限ルール | 「全連絡24時間以内」の番人を決める | 第20章 |
| 7 | 口説きの段取り | 内定は即日・トップから電話 | 第21章 |
| 8 | 数字の記録 | 応募→面接→内定→承諾の4点を数える | 第24章 |
| 9 | 紹介の呼びかけ | 社員への定期的な「一緒に働きたい人は?」 | 第10章 |
| 10 | 振り返りの習慣 | 採用のたびに15分、うまくいった/いかないを記録 | 第25章 |
この表が、実はこの完全ガイド全体の地図にもなっています。一人目人事を採ってから仕組みを作らせるのではなく、仕組みの原型を作ってから一人目人事に渡す——この順番だと、採った人事は初日から機能し、万一辞めても採用は止まりません。
外部パートナーの使い分け:相場と「渡してよい仕事」
自社でやらない部分は外部で補います。日本の採用の外部支援は、ざっくり3種類です。
- 人材紹介(成功報酬):採れたら理論年収の30〜35%(金額の内訳と回収の考え方は採用コストの相場とROI)。「候補者を連れてくる」部分の外注(使い方はエージェントの章)
- スカウト代行・求人運用代行(作業の外注):月額制が中心
- 採用代行(RPO):探す〜日程調整〜数字の管理まで、Howの広い範囲を委託(人材紹介との使い分けは採用代行(RPO)と人材紹介の違い)
料金の相場観は、導入経験者342人への調査(スマートキャンプ・2025年)で、月額費用の最多ゾーンは10〜20万円未満(18.8%)、初期費用は5〜10万円未満(17.7%)が最多。業務範囲が広がると月40万円前後まで上がるのが一般的です。市場の規模感も参考までに——採用アウトソーシング関連市場(RPO・採用管理システム・アセスメントの3市場合算、一部重複を含む参考値)は2022年度予測で約706億円(矢野経済研究所)。隣接するダイレクトリクルーティング市場も2023年度に1,074億円・前年比+23%(同研究所)と伸びており、「採用の作業や専門性を外から調達する」のは、もはや特別なことではありません。
ただし、渡してよいのはHow(作業と運用)だけです。第3章の原則そのままに——何を採るか・誰を通すか・誰を口説くかというWhatの「決定権」を外に渡した瞬間、採用は「それっぽい人の納品」になります。なお、Whatの言語化を外部と一緒にやる(要件定義の壁打ちや戦略の相談相手として使う)のは丸投げとは別物です。決定権が社内にある限り、むしろ言語化の質は上がります。逆に言えば、Whatの決定権さえ社内に握っていれば、外部活用は体制の弱さを補う最短手段です。
一人目人事を採るとき:仕事の中身と選び方
右上の象限(量も難易度も高い)に入ったら、専任——いわゆる一人目人事——の出番です。ここで多くの会社が間違えるのは、「採用実務の経験者」を探してしまうこと。一人目人事の仕事の本質は実務の処理ではありません。
世界的にも、採用担当の役割は「作業の処理者」から「仕組みの設計者・関係者の統括役」へ移行中です(AIが定型作業を吸収し、1人が同時に扱える採用数が増えているため。この潮流はAI化マップの章で詳述)。一人目人事に求めるべきは、この統括側の資質です。
選び方の基準は3つ。①経営者と高頻度で率直に話せること(採用は経営判断の連続です)、②仕組みを作った経験(前職の規模の大小より「ゼロから型を作ったか」)、③現場を巻き込む力(面接官の育成は一人目人事の主戦場になります)。「大手人事出身」の肩書きは、③つとも保証しません——幹部採用の章で見た「環境の互換性」の問題は、人事の採用でも同じです。
想定例で言うと: 社員40名のSaaS企業が、年8名の採用計画に向けて一人目人事を募集。応募者は2人——大手メーカー人事部で10年(制度運用が中心)のAさんと、社員60名のベンチャーで採用の仕組みをゼロから作ったBさん。書類の安心感はAさんだが、この会社に必要なのは「整った制度を運用する人」ではなく「何もない場所に型を作る人」。Bさんを採用し、最初の90日で上の「10個の仕組み」の残りを整備してもらった——これが一人目人事の正しい使い方。
最小構成:今日、専任を採れない会社へ
体制づくりに専任は必須ではありません。①経営者のカレンダーに「採用の週2時間」を固定する、②候補者台帳と数字の記録(仕組み4と8)だけ今週作る、③作業があふれたら、まず月10万円台の外部活用から検討する。この3つが、専任ゼロの会社の現実的な採用体制です。
上級者の一歩深いポイント
① 一人目人事の前に「一人目の外部パートナー」という選択肢がある。 仕組みづくりの経験がある外部パートナー(採用代行や顧問人事)に3〜6ヶ月伴走してもらい、型ができてから専任を採る——第2章の「借りて型を作り、型ができてから採る」の採用版です。専任を採る頃には要件が明確になっており、一人目人事の採用自体の成功率が上がります。
② 兼任者の「片手間」を責めない設計にする。 第3章で見た通り、日本の中小企業の採用担当は7割が兼務で、採用に使える時間は稼働の3分の1程度です。兼任者に専任並みの成果を求めるのは設計ミスです。兼任者の持ち場は「連絡の番人+数字の記録」に絞り、探す作業は外部か仕組みに逃がす——これが兼任体制の正解です。
③ 採用チーム化の分岐点は「面接官の数」で測る。 専任1人の次の拡張は「2人目の人事」ではなく、面接官のプール化であることが多い。採用のボトルネックは実務量より先に「見極めできる人の数」に来るからです。面接官を計画的に増やし育てる話は第17章で扱います。
よくある質問(FAQ)
Q. 一人目人事は何人規模で採用すべきですか? A. 人数では決まりません。「年間の採用人数×職種の難易度」で判断してください。目安として、難易度の高い職種を年5人以上継続的に採るなら専任の検討ライン、量が多くても定型的なら兼任+外部で回ります。
Q. 「社員30名で人事を置く」という目安は間違いですか? A. 出典のない経験則です。結果的に30名前後で専任を置く会社が多いのは事実ですが、それは30名という人数のせいではなく、その頃に採用量が増えるからです。判断軸は量×難易度に置き換えてください。
Q. 採用代行(RPO)の相場はいくらですか? A. 導入経験者342人の調査では月額10〜20万円未満が最多ゾーン、初期費用は5〜10万円未満が最多です。委託範囲が広がれば月40万円前後まで上がります。成果報酬型の人材紹介(理論年収の30〜35%)とは別物として比較してください。
Q. 外部に任せてはいけない仕事はありますか? A. What——要件定義・合否判断・口説きの主役——は社内に残してください。逆に、探す・日程調整・進捗管理・数字の記録といったHowは外部化しても採用の質は落ちません。むしろ連絡速度が上がる分、改善することが多いです。
Q. 一人目人事にはどんな人を選ぶべきですか? A. 「経営者と率直に話せる」「ゼロから仕組みを作った経験」「現場を巻き込める」の3条件です。大手人事の経験年数より、自社と似た環境で型を作った経験を優先してください。
まとめ:体制とは「人を置くこと」ではなく「回る形を作ること」
30名説を忘れてください。量×難易度で象限を確かめ、まず10個の仕組みを紙で作り、作業は外部と分担し、専任が必要な段階が来たら「仕組みを作れる人」を採る。体制づくりの成否は、誰を雇うかより、何を仕組みに落とすかで決まります。まずは候補者台帳と数字の記録——今週作れる2つの仕組みから始めてください。
HYREDは、戦略の立案の壁打ちから、AIの実装・運用(自社開発のAI「Plexa」)、日々の採用オペレーション、成果のモニタリングまで、採用を一気通貫で支えるRPO(採用代行)です。この記事の原則どおり、What(何を採るか)の決定権は貴社に残したまま、言語化の伴走とHowのすべてを引き受けます。「一人目人事を採るべきか、外部で回すべきか」——診断・相談は無料で、契約に至らなくても費用はかかりません。オンライン30分でどうぞ。
主な出典
- First Round Review「Focus on Your First 10 Systems, Not Just Your First 10 Hires」: 原文
- ポテンシャライト「人事は何名必要?」(採用領域は難易度×人数で決まる定量モデル): 原文
- BOXIL Magazine(スマートキャンプ)「採用代行の料金相場・342人調査」(2025): 原文
- 矢野経済研究所「採用アウトソーシング市場に関する調査」(2022年度・関連3市場計706億円予測): 原文
- マルゴト「スタートアップ・ベンチャーの『1人目人事』とは」(30名目安が経験則である例): 原文
- Josh Bersin Company(採用担当の役割の処理者→統括者への移行): 参考
この記事は「採用完全ガイド」(全28章)の第5章です。全体の目次はこちら ← 前章:採用要件の定義 | 次章:初めての幹部採用 →