採用は誰の仕事か|「人事に任せた」が失敗のはじまり——現場と経営の役割分担の設計図
2026年7月21日
結論を先に:採用の失敗の多くは、面接の前——「誰の仕事か」が曖昧なまま始まること
「採用は人事の仕事」。多くの会社がそう思っています。そして多くの採用が、そこで失敗しています。
まず、実態の数字から。日本の中小企業では、採用の主担当の約86%が役員か管理職の兼任です(従業員99名以下・採用係長調査 n=297。役員31.0%+管理職54.9%)。専任の人事などそもそもいない。しかも採用担当者の72.4%は総務や労務との兼務(こちらは企業規模を問わない全体の数字)で、中小企業の担当者が採用に使えるのは稼働時間の35.5%だけという調査もあります(Indeed Japan調査 n=1,647)。つまり日本の中小企業の採用は、構造的に「片手間」でしか回せない体制で戦っているのです。
この条件で成果を分けるのは、担当者の頑張りではありません。役割分担の設計です。海外の調査(Metaview「2026 AI & Hiring Alignment Report」n=505。対象は北米・欧州中東アフリカの従業員200名以上の企業なので、日本の中小がそのまま同じ数字になるわけではありませんが、「要件のズレと連絡の遅れが成果を壊す」構造は共通です)では、採用担当と現場の連携が優れたチームは79%が採用目標を超過達成、連携が普通以下のチームは36%——43ポイント差がつきました。連携の悪いチームは事業目標を落とす確率が3倍という結果まで出ています。
この記事は採用完全ガイド(全28章)の第3章——序章の「3つの設計」に入る前の土台、採用の役割分担(誰が・何を持つか)を設計する章です。結論の型はシンプルです。現場(経営者)が「何を採るか」を持ち、担当が「どう採るか」を持つ。その具体的な線引きと、求人を出す前の1時間のすり合わせ会議のやり方まで落とします。
なぜ「人事に任せた」採用は失敗するのか
理屈は単純です。採用の合否を左右する情報は、ぜんぶ現場にあるからです。
どんな人が欲しいか。その人は入社後、何をすれば「活躍した」ことになるのか。今のチームに欠けている力は何か。候補者の職務経歴書のどこが引っかかるか——これらに答えられるのは、一緒に働く現場と、事業の行き先を知る経営者だけです。採用担当がどれだけ優秀でも、この情報なしでは「それっぽい人」しか集められません。
「人事任せ」の採用で起きることは、いつも同じ順番です。
- 要件がぼやける:現場の頭の中にある人物像が、伝言ゲームで「コミュ力があって優秀な人」に劣化する
- 選考が遅れる:書類の確認が現場で3日止まる。日程調整が1週間かかる。その間に候補者は他社に決まる
- 辞退が増える:面接で現場が「で、何がやりたいの?」と初対面の質問をする。候補者は「自分は歓迎されていない」と感じ取る
逆に言えば、この3つの症状(序章の故障診断表で「現場が採用に協力してくれない」の行)は、すべて役割分担の設計で消せます。実際、この差は数字で測られています。
想定例で言うと: 社員28名の会計事務所。所長は「採用は事務長に任せている」と言い、事務長は「最後は所長が決めるから」と思っている。応募者の書類は2人の間で1週間往復し、面接では所長と事務長が同じ質問を繰り返し、内定を出す頃には候補者は他の事務所に決まっていた。2人とも真面目に働いている。サボりではなく、設計の不在が採用を殺している。
役割分担の設計図:「何を採るか」と「どう採るか」を分ける
a16zやY Combinator、Greenhouseなど、採用の型を発信し続けてきたプレイヤーたちの分担論は、突き詰めるとこの1行に収れんします。
現場・経営者は「What(何を採るか)」のオーナー。採用担当は「How(どう採るか)」のオーナー。
ポイントは3つあります。
① 「What」は絶対に外注も委任もしない。何を採るかを決められるのは事業の当事者だけです。シリコンバレーの投資会社a16zが創業者に課す原則も「幹部採用をサーチ会社に丸投げするな」でした(幹部採用の章参照)。これは幹部に限らず全採用の原則です。
② 「How」は誰が持ってもいいが、必ず1人に決める。兼任の総務でも、経営者自身でも、外部の採用代行でも構いません。ダメなのは「みんなで見ている=誰も見ていない」状態。候補者への返信が24時間を超えない責任者を1人置きます。
③ 経営者は「What」のオーナーであると同時に、最強の口説き役。Yコンビネーターの教え——「社員20人未満の会社では、内定の電話は創業者が自らかける」——のとおり、トップの30分は、担当の30時間より候補者の心を動かします(口説きの設計はクロージングの章)。
なお、2024年に話題になった「founder mode(創業者は現場に深く関与し続けるべきだ、というポール・グレアムの議論)」には、細かすぎる介入を助長するという批判も根強くあります。ただ、こと採用に関しては古くから答えが安定しています。経営者が最後まで手放してはいけないのは What(何を採るか)と口説きであって、日程調整ではない——関与すべき場所を絞れば、founder modeへの批判と両立します。
実装:求人を出す前の「1時間のすり合わせ会議」
役割分担を絵に描いた餅にしないための、たった1つの習慣がこれです。求人を出す前に、現場(経営者)と担当が約1時間、1回だけ会議をする。海外の採用管理大手Greenhouseが「Role Kickoff Meeting」として標準化している方法で、所要は約1時間が目安とされます(難しい役割は後日30分の追加すり合わせを推奨)。
議題は4つ。そのまま使えるアジェンダにしました。
| 時間 | 議題 | 決めること | 決め方のコツ |
|---|---|---|---|
| 最初の20分 | ① この採用のWhy | なぜ今この役割か。入社1年で達成してほしいこと3つ | 「人が足りない」は禁句。要員計画の5択を通過済みか確認 |
| 次の15分 | ② 人物像のMUST/WANT | 絶対条件3〜5個と歓迎条件。年収レンジ | 盛らない。MUSTが6個を超えたら要件定義からやり直し |
| 次の15分 | ③ 選考の設計 | 誰が・何回・何を見るか。各面接の役割分担 | 同じ質問を2人がしない。見る観点を面接官ごとに割り当て |
| 最後の10分 | ④ 運用のルール | 書類確認は誰が何時間以内か。連絡の期限。週次の報告日 | 「現場の書類確認は24時間以内」をここで合意する |
この1時間の投資対効果は明確です。要件のズレ・選考の遅れ・重複質問という、採用を殺す三大事故のすべての予防線がこの1回に張られるからです。逆にこの会議を飛ばすと、走り出してから要件が変わり、選考のたびに「誰が見るんだっけ」が発生し、そのすべてのツケを候補者が払います(=辞退)。
想定例で言うと: 社員55名の建設会社。施工管理の採用で1年空振りが続いていたが、社長・工事部長・総務担当の3人で1時間のすり合わせをやってみた。わかったのは、社長は「若手を育てたい」、部長は「即戦力しか無理」と、そもそも欲しい人が割れていたこと。会議の場で「1人目は即戦力、半年後に2人目で若手」と分解して合意。要件が定まった求人は、3ヶ月で決まった。1年の空振りの原因は、市場ではなく社内にあった。
最小構成:専任ゼロ・社長と現場リーダーだけの会社
①求人を出す前の1時間会議だけは必ずやる(社長=What、リーダーか総務=How の仮決めでよい)、②候補者への連絡24時間ルールの番人を1人決める、③週1回15分、候補者の状況を2人で眺める。この3つで、役割分担の効果の8割は取れます。
上級者の一歩深いポイント
① 「全員採用」は、役割分担ができてから。 「スクラム採用」(全社員で採用に取り組む考え方)は強力ですが、What/Howの分担が曖昧なまま人数だけ増やすと、事故が増えるだけです。順番は、①2人の分担を決める→②面接官を育てる(面接官の育成)→③紹介を全員に広げる(リファラル採用)。
② 現場の協力は「お願い」ではなく「設計」で引き出す。 現場が採用に協力しないのは、多くの場合、意欲の問題ではなく仕事として定義されていないからです。面接を評価項目に入れる、面接の持ち時間と観点を明記する、採用の結果(入社者の活躍)を現場にフィードバックする——協力が構造的に「得」になる設計が先です。
③ 担当者への「丸投げ」チェックは、辞退率でわかる。 役割分担が壊れているかを測る先行指標は、選考途中の辞退率です。What不在(要件のズレ)は面接後辞退に、How不在(連絡の遅れ)は書類・日程段階の辞退に現れます。数字の見方は採用KPIの章で詳述します。
よくある質問(FAQ)
Q. 採用は経営者と人事、どちらの仕事ですか? A. 両方ですが、持ち場が違います。「何を採るか」(要件・見極め・最終判断・口説き)は経営者と現場、「どう採るか」(チャネル・進行・連絡・数字)は担当の仕事です。この線引きを紙に書くことが第一歩です。
Q. 専任の人事がいません。誰が「担当」をやるべきですか? A. 兼任で構いません。重要なのは「候補者への連絡が24時間を超えない番人」を1人に決めることです。総務の兼任でも、経営者自身でも、外部の採用代行でも成立します。
Q. 現場が採用に協力してくれません。 A. お願いの回数ではなく、設計を変えてください。①面接を仕事として定義する(持ち時間・観点・評価への反映)、②求人前のすり合わせ会議に現場を入れる、③採った人の活躍を現場に返す。協力が「得」になる構造が先です。
Q. 面接前のすり合わせ会議では何を決めますか? A. ①なぜ今この採用か(1年後の成果3つ)、②MUST/WANT と年収レンジ、③誰が何回何を見るか、④連絡期限と週次報告。1時間・1回で足ります。この記事のアジェンダ表をそのまま使ってください。
Q. 外部の採用代行(RPO)に頼むと、丸投げになりませんか? A. 「How」を渡すのは丸投げではなく分業です。丸投げになるのは「What」——要件定義と見極め基準——まで渡したとき。Whatを社内に残す限り、外部活用はむしろ役割分担を明確にします(使い分けは採用体制の章)。
まとめ:採用がうまい会社は、「誰の仕事か」が紙に書いてある
日本の中小企業の採用は、役員と管理職が片手間で回しているのが実態です。それでも成果を出す会社と出せない会社の差は、頑張りではなく、What(現場)とHow(担当)の境界線が紙に書いてあるかどうか——調査ではこの連携の質だけで目標達成率に43ポイントの差がつきました。今日やることは1つです。次の求人を出す前に、1時間のすり合わせ会議をカレンダーに入れてください。
HYREDは、戦略の立案から、AIの実装・運用(自社開発のAI「Plexa」)、日々の採用オペレーション、成果のモニタリングまで、採用のすべてを一気通貫で引き受けるRPO(採用代行)です。私たちが引き受けるのは「How」の全部——「What」=何を採るかの言語化は、貴社と一緒に1時間のすり合わせから始めます。まずは無料の診断・相談で、貴社の採用の役割分担表を作ってみませんか。
主な出典
- 採用係長(ネットオン)「中小企業における採用業務の体制に関する実態調査」2022年(n=297。99名以下企業の採用主担当は役員31.0%+管理職54.9%): 原文
- Indeed Japan「採用担当者の業務実態調査」2021年(n=1,647。72.4%が兼務・中小の採用充当時間35.5%): 原文
- Metaview「2026 AI & Hiring Alignment Report」(n=505。連携の良いチームは79%が目標超過達成 vs 36%): 原文
- Greenhouse「Structured hiring: Role kick-off meeting」(求人公開前の約1時間のすり合わせの標準形): 原文
- Paul Graham「Founder Mode」(2024): 原文
- Y Combinator(Harj Taggar)「Convincing Engineers to Join Your Team」: 原文
この記事は「採用完全ガイド」(全28章)の第3章です。全体の目次はこちら ← 前章:そもそも採るべきか——採用の前に検討する5つの選択肢 | 次章:採用要件の定義——「何ができる人か」ではなく「何を達成する人か」 →