要員計画の立て方|「人が足りない=採用」は思考停止。採る前に検討する5つの選択肢
2026年7月21日
結論を先に:採用は「最初の手段」ではなく「最後の手段」
現場から「人が足りません」と声が上がる。経営者が「じゃあ採用しよう」と答える——日本中の会社で毎日繰り返されている、この反射。実はこれが、採用の失敗の出発点です。
外資の常識でも国内の常識でもなく、算数の話です。正社員を1人雇うと、社会保険料・教育・設備・採用費を含めて額面給与の1.5〜2倍のコストが、毎年、雇い続ける限り発生します。年収400万円の人なら年600〜800万円の固定費。さらに研究データはもっと意地悪です。米ウォートン校の査読研究(Bidwell, 2011)によれば、外部から採用した人は内部昇進者より給与が18%高いのに、最初の2年間の評価は低く、辞めさせられる確率は6割高い。つまり採用は、数ある人手不足の解決策の中で「最も高く、最も立ち上がりが遅く、最もやり直しがきかない手段」なのです。
だから、正しい要員計画は「何人採るか」から始まりません。「この仕事は、本当に"正社員の採用"で解くべきか」から始まります。この記事は採用完全ガイド(全28章)の第2章——第1部「採る前の土台」として、採用の手前にある5つの選択肢と、紙1枚でできる要員計画の作り方を扱います。逆説的ですが、採らない選択肢を検討した会社ほど、採用がうまくなります。理由は最後にわかります。
正社員1人の「本当の値段」を先に見る
まず、判断の土台になる数字です。求人票に書く年収は、会社が払うコストの一部でしかありません。
これは「採用するな」という話ではありません。この値段を払う価値がある仕事にだけ、採用という手段を使おうという話です。投資会社セコイア・キャピタルが投資先に配る資料では、人件費は会社の支出の75%を占めるとされます。つまり要員計画は、人事の書類仕事ではなく、会社で一番大きなお金の使い道を決める資本配分の意思決定です。
採用の前に検討する「5つの選択肢」
人手不足の解き方は、採用を含めて5つあります。人事の世界では「Build(育てる)・Buy(買う=採る)・Borrow(借りる)・Bridge(学び直しで橋を架ける)」という4分類が定番ですが(AIHR)、この記事ではBridgeを「育てる」に含めた上で、2026年の現実に合わせて「Bot(機械に任せる)」と「Stop(やめる)」を加えた5択に組み替えて考えます。
それぞれ、どんなときに効くか。
① 育てる(配置転換・内部登用):新しい役割の候補は、まず社内から探します。冒頭のウォートン研究の裏返しで、内部の人は「環境の力」を既に持っているからです。営業事務のエースが実は採用担当に向いていた、という発見は珍しくありません。足りないのは能力ではなく、聞かれたことがないだけ、というケースが多い。
② 借りる(業務委託・副業人材・派遣):日本のフリーランス人口は約1,300万人・経済規模20兆円超(ランサーズ調査、2024年)まで育ち、経理・人事・マーケ・開発のプロを「週1日だけ」借りられる時代です。月10万円の業務委託は、年収400万円の正社員の5分の1のコストで、翌週から、専門性つきで始められます。恒常的な中核業務になったら、そのとき正社員化や採用を考えれば十分です。
想定例で言うと: 社員12名のITスタートアップ。「マーケ担当を採りたい」と半年動いて決まらず、その間マーケはゼロのまま。発想を変えて、週1日の副業マーケター(月12万円)に来てもらい、広告運用の型を作ってもらった。半年後、その型を回す専任を採用——このときは「作られた型を回せる人」まで要件が下がっていたので、1ヶ月で決まった。借りて型を作り、型ができてから採る。順番を変えただけで、採用の難易度そのものが下がった。
③ 機械に任せる(AI・自動化):「人が足りない」の中身が定型作業なら、それは採用ではなくツールの出番です。日程調整・請求書処理・問い合わせの一次対応・議事録——2026年時点で、これらはAIが人より安く速くこなします。YコンビネーターCEOのガリー・タンも、これからの会社づくりについて「採用を増やして戦う」のではなく「社内の機能を自動化し、少人数のまま自分たちの20倍の規模の会社と戦う」という方向を公に示しています(YC「The New Way to Build a Startup」)。少人数のまま大きくなる会社が実際に出てきている今、「その仕事、人間がやる必要ありますか」は失礼な質問ではなく、経営の質問です(詳しくは採用のAI化マップ)。
④ やめる(業務の廃止・絞り込み):一番忘れられがちな選択肢。ポール・グレアム(Yコンビネーター創業者)は「スタートアップを殺す18の間違い」の中で、お金を使いすぎる最大の原因は人を雇いすぎることだと書いています。増員の要望が来たら、まず「その業務をやめたら何が起きるか」を一度だけ問う。答えが「実は大して困らない」であることは、思っているより多いのです。
⑤ 採る(正社員採用):①〜④で解けない仕事——会社の中核であり、長期で人に蓄積してほしい仕事——だけが、ここに来ます。そしてここまで絞り込まれた採用は、要件が明確になっているぶん、成功率が上がります。
想定例で言うと: 社員35名の部品加工会社。受注増で生産管理が回らず、現場は「事務を2人採ってほしい」と要望。社長が5択で分解すると——受発注入力の半分はシステム連携で自動化でき(③)、繁忙期の出荷業務は派遣で吸収でき(②)、実は誰も見ていない日報の集計は廃止できた(④)。残った「生産計画を立てられる人」という中核の仕事1つだけを、正社員採用(⑤)に回した。2人の採用要望は、1人の質の高い採用計画になった。
紙1枚の要員計画:4ステップ
5つの選択肢を、実務に落とします。立派な計画書は要りません。A4を1枚を4つに区切ってください。
ステップ1:仕事を書き出す(何が足りないのか) 「人が足りない」を禁句にして、「どの仕事が、月何時間分あふれているのか」を書きます。人ではなく仕事を数える——これだけで議論の質が変わります。
ステップ2:あふれた仕事を5択に仕分ける 書き出した仕事の1つひとつに、①育てる/②借りる/③機械/④やめる/⑤採る、のラベルを付けます。迷ったら「その仕事は3年後も社内にあるか?」「会社の競争力の核か?」——両方Yesのものだけが⑤です。
ステップ3:⑤に残った仕事を「1年後の成果」に翻訳する 「営業事務1名」ではなく「受注処理のリードタイムを3日→1日にする人」。この翻訳のやり方は要件定義の章で詳述します。ここまで来て初めて、採用計画(何人・いつまでに・どの経路で)に進みます(数字の逆算は採用KPIの章)。
ステップ4:四半期に1回、⑤の答え合わせをする 採った人が計画どおりの成果に向かっているか、①〜④に振った仕事が回っているかを15分だけ振り返ります。要員計画は年1回の儀式ではなく、この振り返りで生き物になります。
保存版:紙1枚の要員計画テンプレート
そのまま埋めれば要員計画になる表です。行はあふれている仕事の数だけ増やしてください。
| あふれている仕事 | 月に何時間 | 5択の仕分け | 具体的な打ち手 | いつまでに | 3ヶ月後の答え合わせ |
|---|---|---|---|---|---|
| (例)受発注の入力 | 40時間 | ③機械に任せる | 販売システムと会計の連携設定 | 今月末 | 残作業10時間まで減 |
| (例)繁忙期の出荷 | 60時間(繁忙月のみ) | ②借りる | 派遣2名を11〜12月のみ | 10月手配 | 残業ゼロで乗り切れたか |
| (例)日報の集計 | 12時間 | ④やめる | 週報に統合して廃止 | 今週 | 誰も困っていないか |
| (例)生産計画の立案 | 30時間 | ⑤採る | 「リードタイム3日→1日にする人」の採用計画へ | 来月着手 | 要件定義に進捗 |
最小構成:専任ゼロ・週2時間もいらない版
①現場の「人が足りない」を「あふれている仕事のリスト」に書き直させる(30分)、②そのリストに5択のラベルを付ける(30分)、③⑤だけを採用の検討に進める。この1時間が、数百万円の固定費と採用の失敗を防ぐ、最も割のいい経営会議です。
上級者の一歩深いポイント
① 「借りて、見てから、採る」は最強の見極めでもある。 業務委託や副業で3ヶ月一緒に働いてから正社員オファーを出す——これは実質、最も精度の高い選考です。面接で人を見抜く精度には限界があります(詳しくは選考の科学)が、実際の仕事ぶりは嘘をつきません。「借りる」は繋ぎではなく、採用の失敗率を下げる正式な選考手法として設計できます。
② 内部登用の枠を「予算」として先に確保する。 多くの会社は採用予算は組むのに、内部登用・育成の予算は組みません。すると新しい役割の話が出るたび、反射的に外部採用になります。「新規の役割は、まず社内公募にかける」というルールを1行決めておくだけで、①の選択肢が機能し始めます。
③ AIによる「そもそも論」は、これから毎年強くなる。 一人あたりの生産性をAIが押し上げるほど、「同じ売上に必要な人数」は減っていきます(第1章で触れたとおり、米国では創業期企業の人数が実際に縮小し始めています)。つまりこの記事の5択のうち、③の守備範囲は毎年広がる。要員計画を毎年同じ前提で作る会社は、それだけで少しずつ過剰採用になっていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. 要員計画はどう立てればいいですか? A. 「何人必要か」からではなく「どの仕事が月何時間あふれているか」から始めてください。その仕事を育てる・借りる・機械に任せる・やめる・採るの5択に仕分け、採るに残ったものだけを採用計画にします。A4用紙1枚で作れます。
Q. 人手不足ですが採用にお金をかける余裕がありません。 A. むしろ好機です。5択のうち②借りる・③機械・④やめるは、採用より安く速い。とくに月10万円前後の業務委託は、正社員の約5分の1のコストで専門性を調達できます。余裕ができてから、中核業務に絞って採用してください。
Q. 業務委託と正社員、どう使い分けますか? A. 「3年後も社内にある仕事か」「競争力の核か」の2問です。両方Yesなら正社員(採用)、どちらかNoなら業務委託・派遣が第一候補。委託で始めて、中核化したら社員化する順番も有効です。
Q. 「採用しない」と決めたら、現場の不満が出ませんか? A. 出ます。だからこそ「何もしない」ではなく、②③④のどれで解くかをセットで示すことが重要です。現場の不満の正体は「あふれた仕事」であって「採用されないこと」ではありません。
Q. 採用すると決めたら、次は何をすべきですか? A. 採る仕事を「1年後の成果」に翻訳することです(要件定義)。そのあと、体制(採用体制の作り方)と数字の逆算(採用KPI)に進んでください。
まとめ:採らない検討が、採用を強くする
冒頭の伏線を回収します。なぜ「採らない選択肢を検討した会社ほど、採用がうまくなる」のか。5択の仕分けを通ると、採用に回る仕事は「中核で・長期で・人に蓄積すべき仕事」だけに絞り込まれるからです。要件は明確になり、口説きの言葉には「なぜあなたが必要か」の実体が宿り、採った人には本物の仕事が待っている。採用の成功は、採用の外側の設計から始まります。まずはA4を1枚、4つに区切るところから。
HYREDは、戦略の立案から、AIの実装・運用(自社開発のAI「Plexa」)、日々の採用オペレーション、成果のモニタリングまで、採用のすべてを一気通貫で引き受けるRPO(採用代行)です。私たちは採用の会社ですが、「これは採用で解かない方がいい」と言うことも仕事だと考えています。診断・相談は無料で、契約に至らなくても費用は一切かかりません——あふれている仕事の5択仕分けを、オンライン30分で一緒にやりましょう。
主な出典
- Matthew Bidwell「Paying More to Get Less: The Effects of External Hiring versus Internal Mobility」Administrative Science Quarterly (2011)(外部採用者は給与+18%・初期評価低・離職リスク+61%): 解説(Wharton)
- Sequoia Capital「People Strategy Playbook for Investor-Backed Companies」(人件費は支出の約75%): 原文
- Paul Graham「The 18 Mistakes That Kill Startups」(2006): 原文 / Sam Altman「Startup Playbook」(採用はできる限り遅らせろ): 原文
- AIHR「Talent Acquisition: The Ultimate Guide」(Build/Buy/Borrow/Bridgeフレーム): 原文
- ランサーズ「フリーランス実態調査2024」(フリーランス人口約1,303万人・経済規模20.3兆円): 原文
- 法定福利費の目安(給与総額の14〜17%程度): 解説
- Garry Tan(Y Combinator CEO)「The New Way to Build a Startup」(自動化と少人数経営の方向性): 原文
この記事は「採用完全ガイド」(全28章)の第2章です。全体の目次はこちら ← 前章:採用の課題は人数フェーズで決まる | 次章:採用は誰の仕事か——現場と人事の役割設計 →