採用面接で聞いてはいけないこと・求人票に書いてはいけないこと|善意の会社ほど踏む「採用の法律」地雷マップ
2026年7月21日
結論を先に:採用の法律の地雷は、悪意ではなく「善意と雑談」で踏む
採用にまつわる法律の話は、たいてい「ブラック企業の話でしょう」と読み飛ばされます。それが最初の誤解です。この地雷原は、丁寧で人情味のある会社ほど踏みやすい——場を和ませようと家族の話を振る。長く働いてほしいから「若い方を歓迎」と書く。ミスマッチを防ごうと持病を尋ねる。どれも善意ですが、どれも法令や行政指針に抵触するおそれのある行為です。
罰則だけの問題ではありません。候補者は面接の様子を口コミサイトやSNSに書ける時代です。「面接で家族の職業を聞かれた」という一件の投稿は、行政指導より速く、採用市場でのあなたの会社の評判を削ります。法律の順守は、守りであると同時に、候補者体験という攻めの土台でもあります(第20章につながる話です)。
この記事は採用完全ガイド(全28章)の第19章——第3部「見極めの設計」の締めくくりとして、地雷を5つの領域に整理します。①聞く(面接での質問)、②書く(求人票の表現)、③調べる(身元調査・健康診断)、④選ぶ(年齢・性別による選別)、⑤約束する(労働条件の明示)。順に、NGと言い換えをセットでお渡しします。
なお、この記事は行政の公開資料に基づく実務ガイドであり、個別事案の法的助言ではありません。判断に迷う場面では社会保険労務士・弁護士に確認してください。
地雷マップ:5つの領域を1枚で
① 聞く:面接で聞いてはいけない14事項
厚生労働省は「公正な採用選考」の指針で、本人の適性・能力に関係のない事項を応募用紙に書かせたり面接で尋ねたりすることを「就職差別につながるおそれがある」として明確に禁じています。全部で14事項。大きく3グループです。
ここで多くの経営者が驚くのが、「尊敬する人物」「愛読書」までNG側に整理されていることです。理由は、それらが思想・信条という「本来自由であるべき領域」の把握につながるから。人柄を知りたいなら、思想ではなく行動を聞く——第16章の行動質問は、精度の面だけでなく法令順守の面でも正解です。質問リストを事前に固定し「リストにないことは聞かない」と決めておくことが、雑談地雷への最も確実な防御になります。
想定例で言うと: 社員19名の運送会社。人柄重視の社長が、面接の冒頭をいつも「ご家族は?お子さんは?」の雑談から始めていた。悪意はゼロ、むしろ「家庭を大事にする人を歓迎したい」という善意だった。あるとき不採用にした候補者から「家族構成を聞かれて落とされた。差別ではないか」という抗議のメールが届く。実際には家族構成は合否と無関係だったが、聞いてしまった以上「関係なかった」と証明する手段がない。以降この会社は質問リスト方式に切り替え、家族の話は「本人が自分から話した場合に相槌を打つだけ」と線を引いた。地雷の怖さは、踏んだかどうかではなく、踏んでいないことを証明できなくなることにある。
② 書く・④ 選ぶ:求人票の年齢・性別・「盛り」
求人票の表現には、法律上の一発NGが3つあります。
年齢制限は原則禁止(労働施策総合推進法)。「35歳以下募集」「若手歓迎」は原則書けません。例外が認められる類型(長期勤続によるキャリア形成のため若年者を無期雇用で採る場合など)は限定列挙で、使う場合も理由の明示が必要です。性別の限定も原則禁止(男女雇用機会均等法)。「営業マン」「ウェイトレス」のような性別を含む職種名も避けます。そして実際より良く見せる「盛り」の禁止——職業安定法の改正(2022年)で、求人情報は「正確かつ最新の内容に保つ」義務が明文化されました。虚偽の求人には罰則もあります。
よく使われる表現の言い換えを一覧にします。
| 書きたいこと | ✕ NGな書き方 | ◎ 適法な書き方 |
|---|---|---|
| 若い人がほしい | 「35歳以下」「若手限定」 | 例外事由に該当する場合のみ年齢制限可(理由明示)。または「未経験歓迎・研修充実」など求める状態で書く |
| 男性がほしい/女性がほしい | 「営業マン」「ウェイトレス」「男性向きの仕事」 | 「営業職」「ホールスタッフ」。体力要件があるなら「20kgの荷物の持ち運びあり」と仕事内容で書く |
| 元気な雰囲気を伝えたい | 「20代の若いメンバーが活躍中!」 | 事実として書くこと自体は直ちに違法ではないが、年齢を採用条件と誤解させる文脈は避ける。「入社3年目のメンバーがリーダーとして活躍中」など年齢以外の軸で |
| 給与を良く見せたい | 上限だけの「月給25〜45万円」(実際はほぼ25万) | 実際の支給実績に沿った幅で。固定残業代を含む場合は内訳(時間数・金額)を明示 |
| 長く働ける人がほしい | 「独身の方歓迎」「お子さんが大きい方」 | 家族構成は適性と無関係(14事項)。「転勤なし」「残業月平均◯時間」など働き続けられる条件の側を書く |
なお、求人票の「盛り」は法律の問題である前に、採用の実利の問題です。盛った求人票で入社した人は、現実とのギャップでいずれ辞めます——中途入社の早期離職の理由として「入社前に聞いていた情報と違った」が上位に挙がることは、マイナビなどの転職者調査で繰り返し報告されています。正直に書くことの実利は第9章(求人票の書き方)で詳しく扱いました。
③ 調べる:身元調査・SNS・健康診断
前章で「リファレンスチェックは適法にできる」と書きましたが、その裏面がここです。本人の同意なく行う身元調査は、厚労省の指針が明確にNGとする選考方法です(14事項のCグループ)。同意のないSNSの深掘り調査・興信所の利用も同じ整理で考えるべき領域です。健康情報はさらに重く、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたるため、取得には本人の同意が必要で、そもそも合理的・客観的な必要性のない採用時の健康診断自体が指針上NGです。
線引きはシンプルです——「仕事の適性に直接関係し、本人が同意した情報」だけを、堂々と集める。それが前章のリファレンスチェックの設計であり、こっそり調べる文化との決定的な違いです。
⑤ 約束する:労働条件の明示——2024年改正で増えた3点
労働条件の明示には2つの局面があります——求人票の段階(職業安定法)と、労働契約を結ぶ段階(労働基準法)。そして2024年4月の改正で、その両方の局面で明示すべき項目が増えました。古い雛形を使い続けている会社は、知らないうちに義務を満たせていない可能性があります。
明示は義務であると同時に、クロージングの武器でもあります。条件を早く・正確に・書面で出す会社は、それだけで候補者の不安を減らします。オファー提示の実務は第21章(内定を承諾してもらう技術)で扱います。
もう1つ、想定例: 社員31名の商社。中途採用の内定者から「求人票では月給28万円とあったが、通知書を見ると固定残業代5万円込みだった。話が違う」と承諾を保留された。会社側に騙す意図はなく、求人媒体の字数制限で内訳を省いただけだった。だがこの一件で、内定者の頭の中では「この会社の条件提示は割り引いて読む必要がある」に切り替わってしまった。結局この内定者は辞退。以降、求人票の給与欄には必ず内訳を書き、オファー面談では通知書を画面共有しながら1項目ずつ読み合わせる運用に変えた——翌年から、条件面を理由にした辞退はなくなった。明示は事務作業ではなく、信頼の演出である。
地図の外の、あと2つの地雷——外国人採用と内定取消
5領域の地図に収まらない、しかし踏むと重い地雷を2つだけ補足します。
外国人を雇うなら、在留資格の確認は雇う側の義務。在留カードで「就労できる資格か・その仕事が資格の範囲内か・期限は有効か」を採用時に確認してください。確認を怠って就労資格のない人を働かせると、知らなかった場合でも不法就労助長罪に問われうるという怖い建て付けです。加えて、外国人の雇入れ・離職時にはハローワークへの届出(外国人雇用状況の届出)が義務づけられています。
内定は「自由に取り消せる予約」ではない。判例上、内定によって(入社日を始期とする)労働契約は既に成立していると扱われるのが基本です。つまり内定取消は法的には解雇に近く、客観的で合理的な理由(経歴詐称の発覚、卒業できなかった等、内定時に予見できなかった事情)がなければ無効となりえます。「業績が思ったより悪いから」「もっと良い人が現れたから」の取消は、賠償問題と評判毀損の両方を招く典型パターンです。出す前に決め切る——だからこそ、ここまでの見極めの設計(第15章〜第18章)が効いてきます。
3つ目の想定例: 社員27名の広告会社。内定を出した2週間後に大口クライアントを失注し、社長は「申し訳ないが内定を取り消したい」と顧問社労士に相談した。返ってきた答えは「内定で労働契約はすでに成立しています。この理由での取消は解雇と同じ扱いで、争われたら負ける可能性が高い」。会社は取消をやめ、入社時期を1か月ずらす相談を本人に持ちかけて合意した(変更は強制ではなく合意で)。「内定は取り消せる予約」という思い込みは、経営判断そのものを誤らせる——出す前に、この前提だけは知っておく必要がある。
最小構成:明日からできる地雷除去3点
①面接の質問を第16章の質問リストに固定し、「リストにないことは聞かない」と面接官全員に共有する(これで①③の大半を防げます)、②現在公開中の求人票を上の言い換え表に照らして総点検する(年齢・性別・給与の内訳の3点だけでよい)、③労働条件通知書の雛形を厚労省の最新モデル様式に差し替える。3つ合わせて、半日で終わります。
上級者の一歩深いポイント
① リファラル採用の謝礼は「支払い方」に注意。 社員に紹介謝礼を出すリファラル採用(第10章)は広く行われていますが、職業安定法は許可のない「有料の職業紹介」を禁じており、社員への謝礼がこれに当たらないかという論点があります。実務上は、賃金・給与の一部として(賃金規程に根拠を置いて)支給する形が職安法40条の枠内と整理されていますが、金額や設計によって判断が分かれうる領域なので、制度化の際は社労士に一度確認するのが安全です。
② ワークトライアル(試し仕事)は必ず有償で。 第15章で勧めた試し仕事は、無償でやらせると「選考」の名を借りた労働の提供になり、公正の面でも法令の面でもリスクがあります。半日でも業務をしてもらうなら報酬を払う——業務委託として発注する形が実務的です。
これと別の論点として、試用期間・トライアル的な有期雇用にも注意があります。「試用中だから自由に打ち切れる」は誤解で、試用期間中や本採用拒否にも解雇に準じたルール(客観的で合理的な理由)が適用されうる、というのが確立した判例の立場です。
③ 「法令順守」を採用広報の資産に変える。 指針を守った選考は、候補者から見ると「質問が仕事の話に絞られていて、公平だった」という体験になります。実際、選考の透明性・公平感は候補者体験の中核です(第20章)。地雷除去は守りのコストではなく、「まともな会社」というシグナルを最も安く発信する手段——中小企業が大手の知名度に対抗できる数少ない土俵の1つです。
よくある質問(FAQ)
Q. 面接で聞いてはいけないことには何がありますか? A. 厚労省の指針が14事項を挙げています。大きくは、本人に責任のない事項(本籍・家族の職業や収入・住宅状況など)、本来自由であるべき事項(宗教・支持政党・思想・尊敬する人物・愛読書など)、そして身元調査や必要性のない健康診断です。「仕事の適性に関係するか」が判断の軸です。
Q. 「尊敬する人物」や「愛読書」を聞くのもダメなのですか? A. 指針上はNG側に整理されています。思想・信条という本来自由であるべき領域の把握につながるためです。人柄を知りたい場合は、考え方ではなく過去の行動(「一番粘り強く取り組んだ仕事は?」など)を聞く行動質問に置き換えてください。
Q. 求人票に「若手歓迎」と書くのは違法ですか? A. 年齢を採用の条件とする表現は原則禁止です(労働施策総合推進法)。例外類型に該当する場合を除き、年齢ではなく「未経験歓迎」「研修制度あり」など求める状態・提供する環境の側で表現してください。「20代活躍中」のような事実の記載も、年齢が条件と誤解される文脈では避けるのが安全です。
Q. 通勤時間や家族構成を履歴書で確認するのは? A. 家族構成は「本人に責任のない事項」に該当し、選考材料にしてはいけません。厚労省は応募書類についても、本人の適性・能力に関係のない事項を含む様式を使わないよう求めています(新規学卒者は厚生労働省履歴書様式例など)。確認が必要な実務情報(通勤手当の計算など)は、内定後に取得すれば足ります。
Q. 2024年の労働条件明示ルールの変更点は何ですか? A. ①就業場所・業務の「変更の範囲」の明示(全労働者)、②有期契約の更新上限の明示、③無期転換の申込機会と転換後条件の明示、の3点が加わりました。労働条件通知書の雛形が2024年4月より前のものなら、厚労省の最新モデル様式への差し替えをおすすめします。
まとめ:地雷除去は半日で終わり、効果は永続する
採用の法律は、条文の数こそ多いものの、中小企業が実務で踏む地雷は「聞く・書く・調べる・選ぶ・約束する」の5領域に集約されます。そして対策は、質問リストの固定・求人票の総点検・通知書の雛形更新——半日の作業で、法令リスクと評判リスクの大半が消えます。第3部「見極めの設計」はここまで。次の第4部は、見極めた人に「選ばれる」ための設計——候補者体験とクロージングです。
HYREDは、戦略の立案の壁打ちから、AIの実装・運用(自社開発のAI「Plexa」)、日々の採用オペレーション、成果のモニタリングまで、採用を一気通貫で支えるRPO(採用代行)です。公開中の求人票・面接の質問リスト・条件明示の書式を、この記事の5領域に沿って点検します——診断・相談は無料で、契約に至らなくても費用はかかりません。オンライン30分でどうぞ。
主な出典
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」(適性・能力に関係のない14事項・身元調査・採用時健康診断): 原文
- 厚生労働省「募集・採用における年齢制限禁止について」(労働施策総合推進法9条・例外事由): 解説
- 厚生労働省「男女均等な採用選考ルール」(男女雇用機会均等法5条): 原文PDF
- 厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更」(変更の範囲・更新上限・無期転換): 案内
- 厚生労働省「求人等に関する情報の的確表示」(職業安定法・2022年改正): 解説
- 厚生労働省「外国人の雇用」(在留資格の確認・外国人雇用状況の届出): 案内
この記事は「採用完全ガイド」(全28章)の第19章です。全体の目次はこちら ← 前章:リファレンスチェックと適性検査 | 次章:候補者体験——選考は「選ばれる側」の時間でもある →